1年前、退職するにあたり、ここのメンバーで福岡に集まって楽しい1日を過ごした。
その時の日記はしずかなインターネットに綴った。
ここに書いてないエピソードがある。
大橋のひげ将軍のお会計のときだ。
トイレに行きたくなったので入ると、便座の上に濡れたトイレットペーパーが鎮座していた。
なぜこんなところに?と思ったが、もう帰るだけだし、わざわざ掃除する意味もないかと思い、濡れたトイレットペーパーをそのまま便座を上げ、用を足した。
トイレから出ると、おおくぼさんが入れ替わりで入ってしまった。ああ、やってしまった。あの便座に残された濡れたトイレットペーパーがこんにちはしてしまう。もし、トイレから戻られた時に何か言われたら、全力で謝ろう。
おおくぼさんが戻ってきた。私は目を逸らし、じゃいさんや、おじさんと雑談に興じた。何か言われるかと思い、頭の中は言い訳で埋め尽くされている。店を出る、車に乗る。そして、蕎麦屋に向かう。いつその濡れたトイレットペーパーの話をされるか冷や冷やしたが、結局おおくぼさんからトイレットペーパーの話は出なかった。
ここからは推測だが、私が用を足した後、濡れたトイレットペーパーは霧散し、時空の旅へ出た。それは排水の音に紛れて、過去と未来の隙間へ吸い込まれたのだと思う。誰にも責められず、誰にも触れられず、存在を問われることもなく。あのとき私が感じた罪悪感だけを、置き土産にして。
今私は何かの縁で、あの時退職したはずの会社に戻っている。再びあの頃のメンバーがひげ将軍のテーブルに集合したとき、誰かがトイレに立ち、また誰かが少しだけ気まずい沈黙を抱え、何事もなかったように話は進む。
必要な時間を一周して、あの濡れたトイレットペーパーは再び姿を現すだろう。もう大丈夫だと伝えるために。そして、私はおおくぼさんに謝罪するかもしれない。
その時がくるまで、いまもどこかでトイレットペーパーは時空を彷徨っている。冷たい湿度を保ったままに。